【廃番モデル図鑑】GMTマスター Ref.16750——日付が一瞬で送れる世代

ロレックスのGMTマスターといえば赤青ベゼルの「ペプシ」が有名ですが、その系譜の中間にあたるRef.16750は、GMTマスターで初めて「日付だけを一瞬で送れる」ようになった世代です。前身のRef.1675とは何が入れ替わり、現行のGMTマスターIIとはどこが決定的に違うのか。この記事では、当サイトが型番ごとに裏を取っている仕様データと、毎週の相場調査の実測値をもとに、①いつ作られ何が変わったモデルなのか ②前期と後期で何が違うのか ③今この世代を探すとき・手放すときに見るべき点、の3点を整理します。
GMTマスター Ref.16750とは、いつ作られたモデルか
Ref.16750は1980年〜1988年頃に生産されたGMTマスターです。前身のRef.1675(1959年〜1979年頃生産)の後継として登場し、GMTマスターで初めてクイックセット日付機能を持つムーブメント、Cal.3075を搭載しました。
ここでいう「キャリバー(Cal.)」とは、時計の中身にあたる機械そのものの型番のことです。ケースの見た目が似ていても、中のキャリバーが替わると使い勝手や精度が変わるため、ヴィンテージの世界では外装と同じくらい重視されます。
Ref.16750が置かれている位置を、前後の世代と並べるとこうなります。
| 世代 | 型番 | おおよその生産期 | この世代で入れ替わったもの |
|---|---|---|---|
| 初代 | Ref.6542 | 1955年〜 | パンアメリカン航空向けに開発。ベゼルはベークライト製 |
| 2代目 | Ref.1675 | 1959年〜1979年頃 | リューズガードが追加され、24時間針の先端が大型化 |
| 3代目 | Ref.16750 | 1980年〜1988年頃 | クイックセット日付(Cal.3075)を搭載 |
| 4代目 | Ref.16760(GMTマスターII) | 1983年〜 | サファイアクリスタル風防を採用 |
※当サイトの型番ファクトシートで出典を確認した範囲で整理しています。生産終了年は情報源によって1〜2年の幅があります。
表の3段目と4段目が重なっているのは誤植ではありません。Ref.16750の生産中に、並行してGMTマスターIIという別ラインが立ち上がっています。つまり16750は「GMTマスターの最終世代」であると同時に、「GMTマスターIIが始まる前夜」の型番でもあります。
「クイックセット日付」で、何がどう変わったのか
Ref.16750の最大の変更点がこれです。ただ、言葉だけだと何が便利になったのか伝わりにくいので、具体的に書きます。
クイックセット日付とは、リューズ(竜頭)を途中まで引いて回すと、日付表示だけを1日ずつ送れる機能のことです。搭載されていない世代では、日付を1日進めるために時針を24時間分ぐるりと回す必要がありました。
たとえば3週間ぶりに時計を巻いて、日付が20日ずれていたとします。
| クイックセットなし(Ref.1675まで) | クイックセットあり(Ref.16750から) | |
|---|---|---|
| 操作 | 時針を24時間×20回、合計480時間分回す | リューズを回して日付を20回送る |
| かかる手間 | 数分がかり。途中で日付が変わる瞬間を目で追う必要がある | 十数秒で終わる |
実用時計としての印象が変わるのは、この一点だけでもかなり大きいところです。ヴィンテージのロレックスを「飾るもの」ではなく「たまに着けるもの」として考えている人にとって、16750以降かどうかは日々のストレスに直結します。
前期と後期で文字盤が違う——2つの見分け方
Ref.16750は8年ほどの生産期間の中で、文字盤の仕様が切り替わっています。同じ型番なのに雰囲気が違って見えるのは、ここが理由です。
| 世代 | 文字盤の仕上げ | インデックス(文字盤の目盛り) |
|---|---|---|
| 前期 | マット(つや消し) | 印刷(文字盤に直接プリント) |
| 後期 | グロス(つや出し) | ホワイトゴールドのアプライド(立体的な金属パーツを取り付け) |
写真で見分けるときは、インデックスに立体感があるかどうかが分かりやすい目印になります。光が当たったときに目盛りが金属的に光るのが後期、文字盤と一体に沈んで見えるのが前期です。
前期のマット文字盤+印刷インデックスは現存数が少なく、コレクターからの人気が高いとされています。一方で後期のグロス+アプライドは、現行モデルに近い「きちんと感」があり、ヴィンテージを初めて持つ人には馴染みやすい見た目です。
どちらが優れているという話ではなく、同じ型番でも探している対象が二手に分かれるという理解が必要です。中古サイトで「16750」とだけ検索すると、この2種類が混ざって出てきます。
風防はアクリルのまま。サファイア化は次の世代から
ここは誤解が生まれやすいところなので、はっきり書いておきます。
Ref.16750は前期・後期を通じて、風防が基本的にアクリル(プラスチック)製です。サファイアクリスタルではありません。
風防とは、文字盤を覆っている透明なカバーのことです。GMTマスター系でサファイアクリスタル(硬く傷がつきにくいガラス素材)が採用されたのは、後継のGMTマスターII Ref.16760(1983年〜)からになります。
アクリル風防の性質は、良い面と悪い面が裏表です。
- 傷がつきやすい:爪が引っかかる程度でも細かい線傷が入る
- 一方で、磨いて消せる:専用のコンパウンドで浅い傷なら目立たなくできる
- 割れにくい:ガラスのように鋭く割れず、衝撃を受けても欠けにくい
- 独特の見え方をする:厚みで文字盤がわずかに歪み、これを「味」として好む層がいる
「ヴィンテージなのに風防がやけに綺麗」という個体は、磨かれているか交換されている可能性があります。これ自体は悪いことではありませんが、オリジナル性を重視する人にとっては確認したいポイントになります。
ベゼルはペプシだけではない
GMTマスターというと赤青のペプシベゼルを思い浮かべますが、Ref.16750には黒一色の24時間ベゼルの設定もありました。これは前身のRef.1675と同じ構成です。
ベゼルは第2タイムゾーンを読むための24時間目盛りが刻まれた回転リングで、赤青の2色は「昼と夜を色で分ける」という実用上の意味があります。黒一色でも機能は同じで、見た目の印象だけが変わります。
探すときに知っておきたいのは、ベゼルは消耗品でもあるということです。長年のうちに退色したり、交換されたりしている個体が珍しくありません。赤が褪せてピンクがかった個体、青が薄くなった個体は、それ自体を好む人もいれば、避ける人もいます。ここも「どちらが正しい」ではなく好みの領域です。
前身のRef.1675と、どこが入れ替わったのか
16750を検討する人の多くが、同時に1675も見ています。この2つの違いを、当サイトのファクトシートで裏が取れている範囲でまとめます。
| 項目 | Ref.1675 | Ref.16750 |
|---|---|---|
| 生産期 | 1959年〜1979年頃 | 1980年〜1988年頃 |
| クイックセット日付 | なし | あり(Cal.3075) |
| 風防 | アクリル | アクリル |
| ベゼル | ペプシ/黒の2種 | ペプシ/黒の2種 |
| 文字盤の世代差 | ギルト文字盤(1950年代〜1960年代中盤)→マット文字盤(1960年代後半〜1980年代中盤) | 前期マット→後期グロス+アプライド |
| インデックスの違い | フチなし(初期)/フチあり(後期) | 印刷(前期)/アプライド(後期) |
Ref.1675についてもう一つ知っておきたいのが、搭載キャリバーの情報が資料によって食い違っているという点です。当サイトが確認した範囲でも、Cal.1560/1570とする情報源と、Cal.1575(GMT機能にクイックセット日付を加えたもの)とする情報源があり、一致していません。
こうした食い違いは、ヴィンテージの世界では珍しくありません。だから当サイトでは、一致しない項目は「一致していない」と書く方針をとっています。断定されている情報ほど疑ってかかったほうがいい、というのがこのジャンルの基本姿勢です。
その点Ref.16750は、クイックセット日付の有無・風防の素材・前期後期の文字盤差といった主要な仕様について、複数の情報源で一致が取れています。調べる側にとっては、1675より16750のほうが「事実がはっきりしている」型番と言えます。
👉 GMTマスター Ref.1675——なぜ今、二本針のGMTが見直されているのか【廃番モデル図鑑】GMTマスター Ref.1675——なぜ今、二本針のGMTが見直されているのか現行GMTマスターIIと並べると、違いはどこに出るか

上は現行のGMTマスターII Ref.126710BLNRです。Ref.16750の写真ではありませんが、40年でどこが入れ替わったのかを見るには分かりやすい1本です。
| 項目 | Ref.16750(1980年〜) | 現行GMTマスターII(Ref.126710など) |
|---|---|---|
| 風防 | アクリル | サファイアクリスタル |
| ベゼル素材 | アルミ系のインサート(退色する) | セラミック(セラクロム。退色・傷に強い) |
| ムーブメント | Cal.3075 | Cal.3285 |
| 24時間針 | 時針と連動 | 時針を独立して動かせる(GMTマスターIIの特徴) |
| 入手経路 | 中古・アンティーク市場のみ(廃番) | 正規店の現行ラインナップ |
とくに大きいのがベゼル素材です。現行のセラミックベゼルはほとんど退色せず傷にも強い一方、色の変化を「その個体が過ごした時間」として楽しむ余地はありません。ヴィンテージ側に人が向かう理由の一つが、まさにこの退色です。
もう一つが24時間針の独立です。GMTマスターII世代では、24時間針だけを単独で動かせるようになりました。Ref.16750までは時針と連動しているため、別のタイムゾーンを合わせる操作の考え方そのものが違います。
なぜ今、この世代に目が向くのか——現行の相場から逆算する
「ヴィンテージが見直されている」という話は各所で語られますが、当サイトはここを数字で説明できます。
現行のGMTマスターIIは、正規店の定価と中古市場の価格が大きく乖離しています。2026年9月20日時点の当サイトの相場調査では、次のような状態でした。
| 現行の型番 | 国内定価(税込) | 定価に対する中古市場価格の比率 |
|---|---|---|
| Ref.126710GRNR(グレー/ブラックベゼル・オイスター) | 1,747,900円 | 約213% |
| Ref.126710BLNR(ブルー/ブラックベゼル・ジュビリー) | 1,780,900円 | 約175% |
| Ref.126710BLNR(ブルー/ブラックベゼル・オイスター) | 1,747,900円 | 約168% |
※当サイトが第三者の販売・買取事業者のデータをもとに集計した中古市場の相場です。当サイトが査定や買取を行うものではありません。相場は日々変動します。
つまり現行モデルは、正規店で買えれば定価ですが、正規店で買えなければ定価の1.7〜2.1倍を出すことになるのが直近の実勢です。この差があるからこそ、「同じ予算を出すなら、退色したベゼルや味のある風防を持つ古い世代のほうが面白いのではないか」という発想が出てきます。
Ref.16750が話題に上がる背景には、モデル単体の魅力だけでなく、この現行モデルの入手しにくさがあります。
相場の話で、当サイトが書けることと書けないこと
ここは正直に書いておきます。
当サイトの相場データベースは、ロレックスの現行ラインナップを対象に毎週スクレイピングしたものです。Ref.16750のような廃番のヴィンテージ個体については、実測値を持っていません。
そして持っていない以上、「16750の相場は◯◯万円です」とは書きません。ヴィンテージの価格は、同じ型番でも次の要素で大きく動くためです。
- 前期か後期か(文字盤とインデックスの世代)
- ベゼルの退色具合と、オリジナルのまま残っているか
- 風防が交換されているか、磨かれているか
- ブレスレットが純正か、伸びがどの程度か
- 保証書・箱などの付属品が揃っているか
これらが1本ずつ違うのがヴィンテージで、「◯◯万円」という1つの数字は実態を表しません。相場を知りたい場合は、同じ前期/後期・同じベゼルの個体を複数本並べて見るのが唯一の方法です。
【持っている人へ】手放すか迷ったときに確認すること
すでにRef.16750をお持ちで、手放すかどうか迷っている場合、判断の前に確認しておきたいことがあります。
- 前期か後期か:マット文字盤+印刷インデックスなら前期。評価の分かれ目になります
- 純正パーツがどれだけ残っているか:風防・ベゼル・ブレスレット・針。交換歴があるなら把握しておく
- 付属品:保証書、箱、購入時の書類が残っているか
- 動作の状態:日付が正常に送れるか、24時間針が動いているか
そのうえで、査定は1社だけで決めないのが基本です。店頭に持ち込む方法、宅配で送る方法、複数社にまとめて査定を依頼する方法があり、ヴィンテージの評価はどれだけ古い個体を扱い慣れているかで差が出ます。現行モデルの査定とは前提が違うという点だけ、頭に入れておいてください。
【探している人へ】中古で見るべき5つのポイント
これからRef.16750を探す人が、個体を見るときに確認したい点を5つに整理しました。
- 文字盤の世代:前期(マット+印刷)か後期(グロス+アプライド)か。写真ではインデックスの立体感で見分ける
- 風防のオリジナル性:交換されているか、磨きが入っているか。アクリルなので傷の履歴が残りやすい
- ベゼルの状態:退色の程度と、インサートが交換されていないか。赤青の褪せ方は個体差が大きい
- クイックセットが正常に動くか:この世代の一番の売りなので、実際に日付が送れるかは必ず確認する
- ケースの削れ:過去のオーバーホールで研磨されすぎていないか。ラグ(ベルトが付く部分)の面が丸くなっていたら要注意
1〜3は写真でもある程度判断できますが、4と5は実物を見ないと分かりません。可能であれば、ヴィンテージを多く扱う中古専門店で実際に手に取って確認することをおすすめします。廃番モデルなので、正規店の新品ラインナップには含まれていません。
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- Ref.16750は1980年〜1988年頃に作られた、GMTマスターで初めてクイックセット日付(Cal.3075)を搭載した世代。日付合わせが数分がかりから十数秒になった、実用面の転換点にあたる型番
- 風防は前期・後期ともアクリルのままで、サファイアクリスタル化は後継のGMTマスターII Ref.16760(1983年〜)から。同じ型番でも前期はマット文字盤+印刷インデックス、後期はグロス+アプライドで、探す対象が二手に分かれる
- 現行GMTマスターIIは2026年9月20日時点で定価の約1.7〜2.1倍という実勢にあり、この入手しにくさが古い世代に目が向く背景になっている
次の一歩として、前身のRef.1675の記事も読んでおくと、この40年でGMTマスターがどこをどう入れ替えてきたのかが立体的に見えてきます。
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